『蒼蒼』を惜しむ     電子礫・蒼蒼
第1号 2004.5.15   
竹内 実
(京都大学名誉教授、蒼蒼社命名者、『蒼蒼』題字執筆者、21世紀中国総研発起人)
 
 めずらしく夜間、机にむかっていると電話が鳴った。
 たいてい、呼び出し音が二回鳴り、しばらく間を置いてまた鳴る。それから受話機をとりあげる。というのは、はじめの呼びだし音二回で、FAX受信が可能になるからである。ところがこれもめずらしく、すぐ受話機をとったが、先方の声がない。FAXだな、とわかり、受話機をおいた。そしてこれもめずらしく、あまり間をおかずに階下におりた。親子電話機の親がおいてあるからである。FAXはすでに受信をおわっていて、何枚かある。なにげなくとると、
 焚火・・・・分身の葬儀・・・天真爛漫・・・
といった文字がとびこんできた。眼に、とびこんできたのである。
 きもをつぶしたといえば、大げさになる。そんな抗議をうける覚えはないがと思いながら、受信された何枚かを順不同に読み、筆者がかなり思いつめていて、思いつめたことをポンポンと書いているのだとわかった。
 悲壮な文章である。しかし、わたしの承知している事実と相違している箇所もあって、『毛沢東集第2版』『毛沢東集補巻』を、ン百セットを市の焼却場の炉中に放りこむと、しるしているが、欠巻があってセットにならないはずなのである。しかし、まぁ、セットに近い巻数がそろっているのは事実だから、これをとやかくいうつもりはない。
 とはいえ、これの材料収集、編集には多くの人材が結集し、なかでも、ここにしるされている第2版と補巻については、筆者じしんが尽力したのだから「放りこむ」というのは、表現としてまずい。
 それで想いだしたが、このシリーズが完結したとき、たまたまシュラムが東京にきていたので、シュラム、北村稔をかつぎだして、シンポジウムを提案し、これは実現したが、準備段階で示されたのが「毛沢東思想をいかに葬るか」だった。わたしは眼をうたがったのだった。さんざんシリーズを買ってもらって、それを「葬る」はないものだと思い、この表題を下げてもらったのだった。
 蒼蒼社主、中村公省氏には思いきりのよいところがあり、それがプラスにはたらくと義侠心とひとの眼にうつるが、マイナスにはたらくと、いままでの本心はどこにいったのかと、ひとに疑いを起こさせる。
 しばらくたつうち、このFAXの筆者の淋しさがつたわってきた。淋しいだろうなと思った。
 かんがえてみると、「蒼蒼」という不定期刊行物のお世話に、わたしじしんずいぶんお世話になっている。
 「蒼蒼」という題字をしるしたという喜びが、わたしの胸のどこかにはあって、毎号の記事に必ずしも賛成というのではなかったが、いまふりかえると、これが蒼蒼社の「金看板(きんかんばん)」だった。少なくとも、これが蒼蒼社主はそういう自負と世間にたいするよびかけをこめて編集し発行しつづけてきたのだ。
 それが休刊になる。淋しくないはずはない。
 たまたま、けさ起きぬけにみたNHKの朝の連続ドラマは、娘が恋人をつれてきて、母親がショックをうける話だった。社主と蒼蒼のカンケイは母親と娘のカンケイに似ている。娘は新しい家庭を築くだろうが、蒼蒼が再刊されるかどうか、わからない。

 休刊する

と決めたのだから、休刊するのは、やむをえないが、やはり「紙」のかたちで残すことはだいじだとおもう。キカイだけで情報が流れる時代になって、キカイをもたない人間は、この情報化社会からきりはなされてしまう時代がきたのだから、こうした大勢からもやむをえないが、「紙」のつたえる情報も捨てがたい。
 そして、そんなに淋しいのであれば、なにも、休刊を全面休刊にしなくてもいいのではないかとおもう。

 わたしの提案は電子版がはじまるのであれば、

 《蒼蒼[電子版]》

という誌名で継続してはどうかということである。
 新しい電子版はいわゆるホームページという形態だろうが、右の誌名の上に蒼蒼社(あるいは21世紀中国総研)を冠すれば、検索も容易だろう。筆者が渾身の力をこめて執筆したであろう「蒼蒼休刊に際して」はこれはこれで歴史的な文章だから加筆訂正は必要ないが、筆者のいう、

 二〇〇四年五月十五日。まったなしである。

のその日に、「21世紀中国総研」のホームページとして発足するさいの構想になりうる提案として、ここにしるしておきたい。
 21世紀中国総研と蒼蒼社との関係もまだじゅうぶんにあきらかにされていないが、そして、総研じたいもまだどういう形態になるかわからないが、たんに、21世紀中国総研ホームページという誌名では訴及力に欠けるところがあろうとおもうのである。
 くりかえしていえば「蒼蒼休刊に際して」はこれはこれでよいのである。
                                         (二〇〇四・一・二九朝)

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