中華点点(第30回)

竹内 実
(京都大学名誉教授)

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電子礫・蒼蒼
第38号 2010.08.03   
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日中関係のこれから


新聞:『中国社会科学報』2009年101月15日付 第一面
『中国社会科学報』2009年10月15日 第一面

 例によって執筆にとりかかるまえの資料さがしに時間がとられるだろうと覚悟して、なにげなく目的の資料とは無関係の紙袋の口(くち)に手をいれると、《中国社会科学報》という朱色の題字が眼に入った。2週間ほどまえから探していた資料だった。
 きょう探していたのは別の資料だったが、なにを探していたか、この意外な発見になにを探すつもりだったのか忘れて、いまだに思い出せない。
 これは題字のとおり、中国社会科学院の機関紙で、2009年10月15日発行の号である。第8面〈域外〉のページに、わたしの中国研究についての評論が掲載されている。筆者は呉光輝(ウー・クワンホイ)、余項科(ユイ・シァンコ)両氏で、呉氏はアモイ大学日語科の教授、来日に当たってこれを持参したのだった。余氏は同志社大学、京都女子大学などの非常勤講師である。
 呉先生は、さいきんわたしの中国研究を紹介・分析した評論を単行本として出版された。それで出版社(人民出版社)の要請もあって、この一文を執筆、京都在住の余先生の意見も参照したようである。


新聞:『中国社会科学報』2009年101月15日付 第八面
『中国社会科学報』2009年10月15日 第八面


◇評価は客観的
 呉光輝先生の論文は客観的な分析が主で、
(1) 竹内は従来の中国研究の主流の有名人、大家(たいか)を研究対象とせず、庶民の民間文化を対象としていると、まず指摘している。たしかにわたしが去年出版した『中国という世界』(岩波新書)は民間の風習や伝承に注目して論を立てている。
(2) 竹内は将来の日中関係については、どのように交渉するかが問題だと指摘している。
 これには若干の補足が必要だろう。
 わたしは将来の中国は‘大国’になり、むしろ‘超大国’といったほうがよいと、いまのところ考えている。
 そして、もう一つの超大国、アメリカと対等になるだろう。この‘大国化’、‘超大国化’は現実問題として出現するので、中国じしんは自分が‘大国’的にふるまい、ほかの国々にたいして‘超大国’的なおしつけをやっているとは思わないだろうが、相手は‘大国’としての圧力を中国に感じる、という関係である。とくに日中関係はややこしくなるだろう。

 
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◇中国の経済力――中国力
 つい2週間ほどまえ、《中国情報ハンドブック[2010年版]》が蒼蒼社から届いた。
 巻頭には《中国力》という快著をさいきん出版された矢吹晋・21世紀中国総研ディレクターの力作論文がかかげられている。そしてまず「抑止力」についての妄論(もうろん)を批判していて、たしかに昨今の日本のマスコミはこの冷戦時代の用語を無批判にとりあげ、またアマチュア政治家も口(くち)にしていたのを想起した。
 じっさい、中国の軍備増強については、日本のマスコミも政治家も人心を不安におとしいれることしか、しなかった。
 それはそれとして、「中国アズナンバー1」という節も立てていて、矢吹氏の面目躍如たるものがある。

 
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◇《中国社会科学報》

 ところで巻頭にもかかげた《中国社会科学報》は念のため日付を確認すると、去年の10月15日号である。
 この号のトップの2009年のGDPが8.3%という報道はいまでは古く、「2009年統計公報」では8.7%にあらためられ、さらに2010年7月2日の国家統計局修正値では9.1%となっている。
 このような記事がなぜ紙面のトップを飾ったのか-といえば、中国社会科学院には経済学部があり、そこが〈2009年秋季報告会〉をひらき、そこで予測として発表したのが、この数字だったようである。社会科学院は人材の育成にも力をそそぎ、それで「学部」があるのだろうが、ここは国務院のシンクタンクとして、こういう予測をおこなっているのだろう。
 あらためて、この一面の記事を読むと、中国経済の現況がうかびあがってきた。

 
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◇中国経済の現況

 1.リーマンブラザースの破綻によるグローバルな経済不況から中国は脱却したが、完全に消えたとはいえない。
 2.内需拡大による経済好況を維持するためには政府は今後も巨額の資金を投入しなければならない(具体的な金額はあげていない)。
 3.消費者の直面する物価上昇と生産過程にも見られる価格上昇にたいしては、対策が必要で無視してはならない。
 
  ―以上のように、わたしなりにまとめたが、この報告会での「報告」が中国の現況をすべて語っているといえないにしても、かなり現実的な分析をしているのには敬服した。ようするに〈インフレの傾向にある〉ということなのだろう。〈財政が重要〉とも指摘している。
 日本がかかえている問題と似たようなものだという感想をもった。日本は閉塞状態であるがかれらは前途を信じている。―このちがいはどこから来るのか、日本がモンダイだと思った。

 (2010年7月29日 記)
 
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