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XZの  日中メディア批評  第9号
          
.2008.11.6発行

胡錦濤体制のジレンマ現われた「取材の自由」問題―四川大地震と北京五輪

 今年の中国は年初から南部の大雪害、チベット騒乱、四川大地震、北京夏季五輪と特大のニュースが相次いだ。中でも大地震と五輪は内外のメディアが歴史的な重大事として洪水のような報道を展開。多くの外国メディア記者にとって、取材の自由という問題を通じて同国政治体制の現状を実感できる機会となった。
◆軍が活動する被災地取材を容認
 5月12日に発生した四川大地震の被災地では一時期、社会主義体制の中国としては前例のないほど取材の自由が拡大された。国営通信・新華社などの公式報道機関以外で、震源地となったアバ・チベット族チャン族自治州の汶川県を含む各被災地にいち早く潜り込んだのは香港メディアの記者たち。彼らは成都市中心部に近い都江堰市方面から、被災者が逃げて来る山道を逆に進み、同県映秀鎮などに入った。
 香港紙・星島日報によると、同紙のある記者は映秀で取材中に負傷し、救援部隊兵士の助けで成都市内の病院に搬送された。中国では本来、大きな災害・事件・事故の詳細な情報は機密とされ、無許可で現地を取材する記者は救助どころか、拘束されかねない。負傷した同紙記者に対する扱いは普段では考えられない「厚遇」である。
 外国メディアの記者たちも続々と被災地に入り込み、人民解放軍や人民武装警察部隊(武警)が救援活動を行う中をほとんど自由に取材した。意図的な「自由化」なのか、それとも単に混乱しているだけだったのかは不明だが、いずれにせよ、大地震発生からしばらくはこうした珍しい状態が続いた。

◆3週間で「正常化」
 また、新華社が重大ニュースを統一的に報じる通常のパターンと違って、四川大地震では国内の各メディアがばらばらに独自の報道を展開した。このため、普段ではあり得ない情報の混乱も起きた。
 5月29日、北川チャン族自治県の唐家山にできたせき止め湖が増水したことから、現地当局は3分の1の決壊を想定して、被害が出る恐れのある約20万人に避難を命令。30日朝から24時間以内に指定した安全な場所へ移るよう指示した。同日には、全面決壊で約130万人が避難することを想定した訓練の実施命令も出された。
 ところが、新華社は「130万人に避難命令」と報道し、欧米の主要通信社が一斉にこれを転電した。インターネットのニュースサイトやテレビが刻々と伝える唐家山せき止め湖の状況から見て、あり得ない話で、明らかに30日の避難命令を読み間違えたものだった。欧州のある通信社に至っては、まず新華社の誤報を速報しておいて、その後に否定。しかも、関係当局者に取材した上で差し替えた記事が「避難命令は出ていない」とこれまた誤報だった。(新華社の報道は新華網=http://www.xinhua.org/、欧米主要通信社の報道はYahoo! NEWS=http://news.yahoo.com/などで見ることができる)
 このほか、救援活動中の解放軍ヘリコプターが同31日、山中に墜落した事故では、地元の公式メディアである四川テレビがいち早く「墜落ヘリの残骸発見」と独自情報を伝えたが、全くのデタラメだった。
 もちろん、このような報道の自由と混乱は長続きしなかった。6月に入ると、警察など関係当局は態勢を立て直し始め、学校倒壊関係の取材をしていた外国人記者が相次いで拘束された。倒壊した学校は次々とアクセスが規制された。事態は大地震発生から3週間にして「正常化」された。

◆取材妨害続発の一方で異例の謝罪も
 北京五輪では「取材対象の同意があれば、関係当局の許可は不要」という国務院の臨時規定(昨年1月施行)が適用された。しかし、実際には、五輪行事と直接関係ないテロ事件はもちろん、五輪関係の取材でも当局の妨害が相次いだ。
 北京では7月25日、五輪チケット販売所に4万人以上が押し掛けて混乱が生じている様子を取材しようとした香港メディアの記者やカメラマンが警官に突き飛ばされたり、抑え込まれたりした。警察はサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙のカメラマンを一時拘束した。
 8月4日には、テロ事件があった新疆ウイグル自治区のカシュガルで武警が中日新聞カメラマンと日本テレビ記者を拘束した上、暴行を加え、カメラマンは肋骨にひびが入るけがを負った。同自治区では10日にもクチャで取材中の産経新聞記者と時事通信の記者とカメラマンが警察に拘束された。
 国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」によると、五輪期間中に中国当局から暴行を受けた、もしくは拘束された外国人記者は少なくとも22人。「国境なき記者団」は「中国は北京五輪開催が決まった時、五輪期間中の報道の自由を保障すると約束したが、それは守られなかった」と批判した。
 もっとも、7月25日のケースなど一部の取材妨害について関係当局者が(こっそりと)当事者に謝罪したのは、かつてはなかったことだ。また、大地震発生から3週間のメディア“放任”や五輪向けの取材自由化臨時規定(10月17日発表の新規定で事実上恒久化された)なども10年前の中国では考えられなかった。いずれも状況に強いられた面があるものの、取材する側から見れば、一定の進歩ではある。
 だが、それも大地震直後の混乱が収まったり、重大な治安問題に直面したりすると、旧態依然の対応が出てくる。何事も「和諧」を追求するが、一党独裁という政治体制の根本は変えたくないという胡錦濤体制のジレンマが外国メディアへの対応に現われているように思える。(ジャーナリストXZ)
  
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