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XZの  日中メディア批評  第13号
          
.2011.01.10発行

中国の「核心的利益」とは何か?

 2010年の中国報道では「核心的利益」という言葉が頻出した。日本を含む各国のメディアが「中国は新たに南シナ海を『核心的利益』と規定した」などと報じ、同国が国力増大を背景に覇権主義的な姿勢を強めていると強調したが、中国自身がどう説明しているかはあまり報道されておらず、言葉が独り歩きしているようだ。この核心的利益とはいったい何なのか。

◆第一は「党の指導」
 中国外務省は10年12月6日、「平和的発展の道を堅持しよう」と題する戴秉国国務委員の論文を公式サイトで公表した。政府指導部で外交を担当する戴氏は「どのような発展の道を選択しても、国家の重要な利益、特に核心的利益を代償にすることはあり得ない」とした上で、核心的利益について次のように説明した。
 「第一は中国の国体、政体と政治的安定、すなわち共産党の指導、社会主義制度、中国の特色ある社会主義の道。第二は中国の主権・安全、領土保全、国家統一、第三は中国経済・社会の持続可能な発展の基本的保障。これらの利益は侵犯・破壊を許さないものだ」
 戴氏は核心的利益の具体例として特に台湾問題を挙げ、台湾独立に対して武力行使の選択肢を放棄するという確約はできないと強調した。平和的発展を追求するが、上記の特定の利益は譲れないということである。ただ、台湾以外に具体的な地域は挙げていない。
 戴氏は「中央外事工作会議が成功裏に開かれ…」と述べており、論文は非公開で開かれた同会議で戴氏が行った演説をまとめたものとみられる。

◆「南シナ海=核心的利益」ではない
 また、核心的利益に関しては、中国外務省のスポークスマンや次官補、駐日大使、国連事務次長を歴任した陳健氏(現中国国連協会会長)が同年8月下旬、東京で開催された「東京―北京フォーラム」で詳述している。党・政府の現役高官ではないが、社会主義体制の中国では第一線を退いた幹部も事実上、政権の一員であり、陳氏の説明は一種の公式見解とみてよいだろう。
 同フォーラムのサイトによると、陳氏は南シナ海の領有権問題について「国家利益に関わるものだが、係争を棚上げして開発を行うこともある。これはチベットや台湾のような核心的利益ではない。あくまで『係争』であり、平和的話し合いで解決すべき問題だ」と語った。
 陳氏はさらに、中国が領海以外の海洋まで自分の海と見なしているとする産経新聞の指摘に反論して、以下のように解説した。
 「中国にとって、南シナ海は核心的利益に関わる問題だが、核心的利益も含まれるという意味で理解してもらいたい。核心的利益と『等しい』のではなく、『含まれる』ということだ。『南シナ海は中国の核心的利益だ』と述べた将軍がいたが、これについては中国国内でも多くの議論がある。一人の将軍の発言を誇大に描くのは言い過ぎと言える」
 なお、この将軍とは軍事科学学会副秘書長の羅援氏を指す。同氏は共産党諜報部門の責任者だった故羅青長氏の息子である。

◆「係争があることは認める」
 陳氏はこの問題に関するスポークスマン役を務めているようで、11月上旬にもNHKなど一部の日本メディアの取材に応じ、核心的利益について再度説明した。取材した各社はいずれも詳しく報じなかったようなので、中国国連協会のサイトに掲載された発言内容を引用する。
 「南シナ海は中国の核心的利益だと言うのは正確ではない。南シナ海には中国の核心的利益があると言うのが正確だ。前者は、南シナ海全体が中国の核心的利益であるとの印象を与える。南シナ海には西沙、南沙、中沙(諸島)があり、われわれには、これらの島や岩礁が自分の領土だとする理由と十分な根拠がある。しかし、われわれの領土でないところも多い上、南シナ海は国際的な公海で、航行の自由がある。したがって、南シナ海は中国の核心的利益だと言うのは間違いであり、核心的利益があると言うべきなのだ。(中国語で「是」と「有」の)一字の違いが多くの誤解を招く」
 陳氏は中国にとっての南シナ海問題と日本にとっての尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題の相違を指摘した。
 「中国の核心的利益は第一に発展、第二に台湾。この二つの問題は(他国に)相談する余地はない。どの国であれ、誰であれ、われわれのこの二つの核心的利益を損ねることには、中国は決して同意しない。だが、南沙、西沙などの島や岩礁の問題については、われわれは係争があることを認めており、あなた方(日本)の釣魚島に関する立場と異なる。あなた方は係争があることを認めないが、われわれは、南沙や西沙が係争地域であることを認め、ベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイとの間で係争があることを認めている。南沙、西沙などは中国の国家利益だが、われわれは係争があることを認め、関係国との平和的な交渉を通じて解決したいと願っており、戦争という手段を使って解決することは絶対にあり得ない」

◆中国国内に意見の食い違いも
 「中国政府は台湾、チベット、新疆を核心的利益と認定しているのか」という日本メディアの質問に対し、陳氏はこう答えた。
「その通り。台湾、チベット、新疆と発展はすべて中国の核心的利益で、(この立場には)全中国人が一致して賛同している。南沙、西沙などの問題では、中国人にも2種類の意見がある。核心的利益だと考える人もいるが、国家利益ながら核心的利益ではないと考える人がかなり多い」
 戴、陳両氏の発言を総合すると、中国共産党政権は、同党の独裁体制を維持しながら経済発展を進めること、および台湾などの独立を阻止することを核心的利益と見なしている。どちらかと言えば、内向きである。拡張主義的な対外強硬論もあるが、今のところ政権の主流ではないということであろう。
 もちろん、中国当局者が「平和的に発展する」とか「覇権を求めない」と言明したからといって鵜呑みにはできず、その行動を注視する必要はある。また、秘密の多い外交・安全保障問題でさまざまな未確認情報が飛び交うのも当然だ。しかし、中国の核心的利益に関しては、10年春以降、一部の報道が伝えた情報や分析が定説化して、中国脅威論を補強する材料として使われている嫌いがある。
 日本では昨年、尖閣沖で起きた海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件が原因で中国脅威論が一段と高まった。ただ、中国側も事件への対応でかなりあたふたしたり、事後の対日関係修復に苦労したりした形跡があり、急速な経済発展で自信を深める胡錦濤政権が一丸となり、断固として対外強硬策を打ち出しているという様子ではなかった。
 漁船船長の逮捕・送検に対し、中国政府は居丈高な態度をとったものの、日本側が一国会議員を「密使」として北京に派遣すると、「待ってました」とばかり、政府外交部門トップの戴氏ら高官が長時間の会談に応じた。ニューヨークで日本に強い警告を発した温家宝首相は船長釈放後、ハノイで菅直人首相と会うか会わないかで混乱を露呈した。また、中国外務省は日本側に謝罪と賠償を要求しておきながら、すぐに事実上撤回している。
 このようなちぐはぐな態度には、陳氏が公言した中国国内(もしくは政権内部)における意見の食い違いが関係しているとみられる。戴氏の演説も、特定の核心的利益を守りながらも対外協調路線を重視する胡主席らの考えを政権内で徹底し、異論を抑える狙いがあった可能性がある。
  (ジャーナリストXZ)
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