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XZの  日中メディア批評  第14号
          
.2011.07.18発行

「江沢民死去」報道の顛末―香港ATVと産経新聞が突出

 7月6日から8日にかけて、多くのメディアが江沢民前中国国家主席の死去説や危篤説を伝えた。中でも、香港のテレビATVと産経新聞は「江氏が死亡した」と断定。中国当局が国営通信社の新華社を通じて、死去説を否定したため、ATVは死去報道を取り消して謝罪したが、産経は「死亡したもようだ」と微調整しただけで、報道を撤回していない。

◆権威筋」が否定

 江氏の死去・危篤説は5日深夜からインターネット上で流れ始め、これを一部の香港紙が6日の紙面(朝刊)で紹介したことから、一気に広まった。韓国のテレビKBSが同日午後、複数の消息筋の話として「死亡したもようだ」と報じたが、「そういう説もある」という感じの報道で、大展開はしなかった。
 その後、ATVが6日夜、特ダネとして「江氏が死去した」と報道。さらに、江氏の生涯を振り返る特別番組を同日中に放送すると予告した。ところが、しばらくすると、ATVは特別番組の予定を取り消した。大々的に報道したものの、すぐに「怪しい」と考え直したようだ。
 他の香港メディアは死去説が流れていることを伝えながらも、断定は避けた。7日付の読売新聞もATVの報道を紹介したが、「確認されていない」と慎重。日本経済新聞は「死去報道が相次いだが、中国共産党関係者は否定した」と指摘した。毎日新聞と朝日新聞は「危篤」との見方を示した。
 産経は7日付朝刊の段階では、死去説が流れていることを北京発で冷静に報道していたが、7日午前になって、「日中関係筋」の情報を基に「江沢民氏が死去」という大見出しの号外を出した。しかし、新華社が同日昼、死去説を「全くのうわさ」と否定する「権威筋」の話を報じた。江沢民弁公室か党宣伝部門高官のコメントとみられる。

◆親族は地方出張

 産経の号外の記事は海外特派員のクレジットがない。日本の新聞では通常、海外発の記事に「北京=××特派員」といったクレジットを付けるのだが、この記事にはクレジットがないので、北京ではなく、日本国内で書いた原稿ということになる。
 また、号外が「6日夕、北京で死去した」と断定していたのに、8日付朝刊は「6日夕、北京市内の病院で死去したもようだ」と若干修正。中国当局は病死報道を強く否定しているとした上で、「生命維持装置などを使って、心肺停止状態の江氏に“延命工作”を施している可能性もある」と注釈を加えた。
 しかし、中国メディアの報道によれば、人民政治協商会議(政協)人口・資源・環境委員会副主任・中国花卉協会会長で江前主席の妹である江沢慧氏は6日から7日まで青島市(山東省)を視察。中国科学院副院長を務める江前主席の長男、江綿恒氏も9日、内モンゴル自治区で開かれたフォーラムに出席している。
 江前主席が6日前後に死去した、もしくは危篤になっていたとすれば、親族がのんびりと地方に出張するはずはない。仮に新華社が伝えた権威筋の話を信用しないとしても、この時期に江氏が死んだとか、死にそうな状態だったということは考えにくい。
 ただ、李鵬元首相ら有力長老が多数出席した中国共産党結成90周年の祝賀大会に江氏は欠席しており、江氏の健康状態が悪いのは間違いない。また、山東省のニュースサイト「山東新聞網」は6日夜、「敬愛する江沢民同志は永遠に不滅である」と江氏を勝手に追悼してしまい、一時閉鎖された。このような失態は、中国メディアの間でも「江氏の訃報を近く出すことになる」という認識があることを示している。
 なお、本人は否定しているが、香港各紙によると、ATVの「特ダネ」は事実上のオーナーである中国の実業家、王征氏が自分の情報をニュース部門に押し付けたものだったとみられている。現場の記者・編集者の方々には「御愁傷様」と言うしかない。
  (ジャーナリストXZ)
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